研究発表会
◆ 第16回研究発表会
宗教心理学的研究の展開(16)
―宗教と生命倫理―
- 日本心理学会第83回大会:2019年9月11日(水)〜13日(金)
- 日時:9月13日(金) 15:40〜17:40
- 会場:立命館大学大阪いばらきキャンパス
- 企画趣旨
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現代において,医学,医療技術,生命科学の発展のもとで,生命の操作可能性が飛躍的に増大している。それらは,出生前診断による人工妊娠中絶,着床前診断による選別,脳死・臓器移植,安楽死・尊厳死などの形で現れている。これらの事柄は,自己決定権の問題を絡ませながら,私たちに「いのちとは何か」「生とは・死とは何か」との問いを突きつけるものである。そして,これらの問いは深く宗教に結びついたものでもある。ゆえに,生命倫理の問題は,宗教と時に交わりながら,時に対峙しながら,様々な領域で検討され,議論されてきた。しかしながら,心理学界においてはほとんど行われていない。そこで本シンポジウムでは,宗教と生命倫理の問題について真正面から検討・議論したいと考えている。宗教学者,老年学者,僧侶,臓器移植コーディネーターから話題提供を行ってもらうことにより,研究と現場の両面からこの問題について深く考える機会としたい。
企画・司会 松島公望(東京大学)
- 話題提供
- 1.大橋 明(中部学院大学)
- 「高齢者を対象とした「生命倫理における宗教」に関わる実証的研究」
- 高齢者を対象とした生命倫理に関するテーマは,インフォームドコンセント,看取りにおける意向の確認(医療意思の決定)等が挙げられるが,これらに宗教がどのような意味をもつのかを直接的,実証的に示した研究はいくつか見られる。一方,宗教的な思想を取り入れた「マインドフルネス心理療法」の効果が高齢者や末期がん患者を対象に報告されている。生命倫理における宗教の意義についての研究は今後も増えることが推測される。
- 当日資料
- 2.石井賀洋子(元臓器移植コーディネーター)
- 「臓器移植コーディネーターの立場から」
- 臓器移植とは,重い病気や事故などにより臓器の機能が低下した人に,他者の健康な臓器と取り替えて機能を回復させる医療とされている。提供の意思を示す第三者の存在がなければ成り立たない医療でもある。臓器を提供する側,移植を受ける側ともにかかわりを持つ立場である臓器移植コーディネーターとして,移植に関わる人びとが抱える心理的葛藤や,宗教的,倫理的問題について日々の活動から思うことを話題提供したい。
- 当日資料
- 3.平子泰弘(曹洞宗総合研究センター)
- 「宗教教団の生命倫理への取り組み」
- 宗教界,特に各宗教団体において生命倫理の問題は古くから論じられてきたわけではない。これがにわかに課題として扱われたのが脳死・臓器移植問題に際してであった。各教団は教義を基に生命観や死の捉え方,臓器移植への考え方を明らかにし,信者への説明や布教でも教団の方向性を示していった。以後,生殖医療問題においても情報収集を続けている。そうした経緯と心理学界へ期する所を述べたい。
- 当日資料
- 4.安藤泰至(鳥取大学)
- 「スピリチュアルな問いとしての生命倫理−宗教と医療のはざまで−」
- 今日「生命倫理」問題と呼ばれるもののなかには,単に法やガイドラインによる規制や,医療現場における適正な手続きによって解決されるようなものばかりではなく,私たちに「生とは何か」「死とは何か」「人間とは何か」といった哲学的かつ宗教的な問いを突きつけるものが含まれている。ここでは宗教と医療のはざまで,私たちが現実にそれを生きている「いのち」からその両方を問い直す営みとして,生命倫理をとらえてみたい。
- 当日資料